研究室メンバーと研究内容


田川正朋 (准教授)

 水棲動物(主に魚類)の発生に伴っておこる形態変化(たとえば「変態」)や,正常なおとなの形になれない「形態異常」について,ホルモンを切り口として解析を行っている.

現在,進行中の主なテ−マは

1)ヒラメやカレイ類で,体の左右が異なった形に作られるしくみ.
これらの魚種でも,幼魚期には他の魚と同様に左右対称である.しかし,変態と呼ばれる時期に片側の眼だけが逆側に移動を行い成魚と同じ形になる.一般に魚類の変態では甲状腺ホルモンが中心的な役割を果たす.ホルモンは体中に均等に行き渡るのに,ヒラメ・カレイ類では,どのようにして体の左右で異なった現象が起こるのかを明らかにしたい.

2)ヒラメやカレイ類に起こってしまう形態異常
 オタマジャクシは間違いなくカエルの形に変態してくれる.しかし,ヒラメやカレイ類では,変態を失敗して左右対称になってしまう個体が,多い時には8割以上も出現してしまう(ホシガレイ左右性異常の写真).また,ヒラメでは正常に変態したあとでも,裏側に徐々に黒い部分ができてきてしまう着色型黒化と呼ばれる現象も知られている(ヒラメの着色型黒化の写真).これらが「形態異常」と呼ばれる現象であるが,異常をうまく利用すると,正常な発生過程が理解しやすくなる.正常な形に育たない原因を甲状腺ホルモンやコルチゾルなどから明らかにし,水産増養殖の現場に直接役立つ研究へと発展させたい. この部分の概要については,古典的なホルモン測定法(RIA)による魚類変態の研究,京都大学放射性同位元素総合センター RIニュース. 62(2018): 6-8.を参照されたい.

3)その他の魚類における形態異常
 その他の魚類においても,飼育下では天然とは異なる形になってしまう現象が知られている.次のターゲットとして,これらについてもホルモン系を切り口として研究を進めつつある.また、飼育環境と天然海域の、どのような差異が形態異常の原因となるのかを将来的には明らかにし、より効率的な養殖・放流用種苗の生産に寄与したい。

過去には,卵発生と初期減耗,魚類のネオテニー(幼型成熟),キンギョの形態の多様性,甲殻類の形態異常などについても学生のテーマとして取り上げたこともある.水棲動物の色や形におこる「面白そうなにおいのする」現象であれば,今後も積極的に取り上げたいと考えている.

中山耕至 (助教)

・水産動物の個体群構造:水産動物の資源管理や人工種苗放流による資源増大を図るうえでは,対象種の種内個体群構造を明らかにし再生産の単位を把握することが必要である.ミトコンドリアDNAやマイクロサテライトDNAマーカー,一塩基多型情報等を用いて,魚類を中心とした各種水産動物の個体群構造分析を行っている.
・有明海の大陸遺存種,遺存個体群:有明海の特異な生物相の中核である大陸遺存種について,それらと近縁な中国・韓国沿岸種との遺伝的特徴の比較を行い,遺存種形成の過程や,種ごとの分化時期の違いについて調べている.また,減少している種や絶滅危惧種については保全遺伝学的分析を進めている.
・東北地震および津波後の魚類成育場の変化:2011年の東北地方太平洋沖地震では,津波や地盤沈下により沿岸・内湾のアマモ場・干潟等の魚類成育場は大きな被害を受けた.その影響からの回復過程を定期調査によって調べている.また,地盤沈下によって新たに生じた河口塩性湿地が仔稚魚によって利用されるようになる過程についても調査している.
・山梨県西湖で生存していることが再発見されたクニマスについて,遺伝的多様度や近縁種ヒメマスとの交雑の有無について調べている.

植田晶子 (事務補佐員)




木下直樹(社会人D)

海産魚において個体群構造を把握することは適切な資源管理や保全のために必要不可欠ですが,費用や労力がかかるため数多い水産対象種を網羅的に調査することは困難であり,個体群構造を優先して調査すべき種を効率的に見出す手法が必要です.そこで,海産魚の生活史特性(生息水深等)を指標として地域間での個体群分化の強さを推定可能かどうかを調査しています.



田原宏一(D1)

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岸田岳大(M2)

絶滅危惧種アカメの保全遺伝学的研究を進めています.アカメの分布は日本の高知県と宮崎県にほぼ限られていますが,その中でも確認記録の多い地域には偏りがあり,個体群が地域的に分断されている可能性があります.そこで,地域個体群間にどのくらい遺伝的交流があるのか,繁殖個体数はどれほどなのか,調べることを目標としています.


安西 真(M2)

種苗生産においては,卵黄吸収期(孵化後1週間程度)に,ときおり原因不明の大量死亡が起こることが知られています.この死亡の原因について,受精卵のさまざまな特徴や仔魚の飼育環境といった側面から,主にヒラメを用いて検討しています.

写真 ヒラメの卵と仔魚


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西村宗真(M1)

左ヒラメに右カレイ,とよく言いますが,時折,カレイのように体の右側に眼があるヒラメ(右ヒラメ)が出てきます.このような異常がどのようにして出てくるのかについて,遺伝的な切り口から解明できないかを,種苗生産の場において右ヒラメが高い頻度で発生したサンプルを用いて検討しています.

写真 正常有眼側


写真 逆位有眼側



馮 天芮(M1)

絶滅危惧種であるアカメの分布調査を行っています.アカメの生活史については未だ不明な点が多いですが,特に初期生活史は適切な保全を行う上で重要な情報です.そこで,環境DNA分析を用いて広域的に調査を行い,その稚魚の成育場や産卵場についての知見を得ることを目標としています.

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豊澤拓海(M1)

1990年代を中心に養殖用種苗として輸入されたタイリクスズキが,日本に生息するスズキと交雑しているかどうかを明らかにすることを目標としています.


永井南美(M1)

ヒラメのような浮性卵を産む種では,死んだ卵や仔魚は沈むことが知られています.生きている卵や仔魚が浮力を維持する機構がについて,生理学的な観点から実験的に検討しています.

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梅村まほろ(B4)

ヒラメやカレイの仲間では,飼育下で左右性の形態異常が多発することが知られており,天然環境と飼育環境の違いによるストレスが一因となっている可能性が考えられています.そこで,カレイ科のマツカワを用いて,ストレスで分泌されるホルモンであるコルチゾルに注目し,ストレスと形態異常の関連を検討しています.
また,魚は体液の浸透圧を一定に保つように浸透圧調節を行いますが,孵化してすぐの仔魚がいつからどのような浸透圧調節を行っているのかほとんど明らかになっていません.そのため,蛍光色素を用いて海産魚類の卵黄仔魚の浸透圧調節の研究も行っています.

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齋藤大輔(B4)

九州西部の有明海では,特産種ハゼクチとマハゼとの間で交雑が確認されています.一塩基多型情報を用いることで交雑状況や環境適応への影響を明らかにすることを目標としています.


上廣直哉(B4)

絶滅危惧種ネコギギの保全遺伝学的研究を進めています.ネコギギは日本固有の淡水魚で,主に愛知県の豊川水系に分布していますが,ダム建設などによりその生息地は脅かされています.湛水予定地に生息する集団を保全するため,飼育下繁殖および移殖事業が実施されており,放流個体からの再生産も確認されています. 移殖集団の遺伝的健全性や将来的な存続可能性を評価し,保全施策の妥当性を支えることを目指しています.